あのとき食べた背徳感を忘れられない

 誰もが認める美女の友人と訪れたちょっと高級なダイニングバー。可愛くて性格も良くて話すと面白い彼女と二人っきりで過ごす時間は、それはもう特別で、何もかもが煌めいているような夜だった。

 お酒が進むたびに話題は毒のある方向へ。普段「いい子」の正装をしている二人が「は〜やれやれ……さて」と堅苦しい上着を脱いでゆるりとした部屋着になって語るような毒舌トークは、それはそれは面白くて、涙を流して笑っていたらあっという間に時間が過ぎていった。

 「そろそろラストオーダーのお時間です」

 店員の声で我に帰る。笑いすぎてお腹減ったね、何か食べようかとメニューを開く。

 「えっこれ……メニューにしていいの」

 友人も私も同じページで思わず固まって、それからすぐに注文した。甘いスイーツセットに色とりどりの綺麗なお酒を楽しんで、最後に頼んだものは……

 

 『しあわせのバター醤油ごはん』

 

 メニュー写真にあった通り、丼に入った白いご飯にバター、海苔、ネギ、そして醤油が添えてある限りなくシンプルな一品。わざわざこんな洒落た店で頼まなくとも、家にあるものでさっと作れてしまうような。だけどその発想はなかった、品行方正で大和撫子な「いい子」で生きてきた私たちには、あまりに道を外れたあってはならない組み合わせだったのだ。

 これでもかと美しく盛り付けてある(でも内容は限りなく庶民的な)具材を全て丼に放り込み、少しずつ醤油を足しながら混ぜる。もはや見た目も女子会とは程遠い。

 ほかほかご飯にバターがじわっと溶けて絡んだところで、それぞれ取り皿に分けていただきます。「これは……!」驚いた表情で顔を見合わせる。「……見た目の通りすぎて分かりきったことだけど、美味しい、ね」「いや本当、間違いない組み合わせってあるよね」「原価なんてほとんどかかっていないだろうに、この美味しさってずるくない?」「ずるいずるい。今までの手が込んだ料理って何だったのって思うくらい、こんなに手軽に『しあわせ』になれるなんて」……

 そんなことを言い合いながら完食して、おそらく一人前を二人で分けたから腹八分感もちょうどよくって、幸福感に包まれて解散したのだった。きっとあの美味しさは、食材のもつ味わいだけではなかったけれど。

 たまに思い出すと食べたくなる、あの背徳的な夜の味。今では山葵を足したり天かすを載せたりとアレンジまでして、すっかり食卓の一選択肢になっている。

 

今週のお題「ごはんのお供」